ビルクリーニングを読む
ハードフロア管理は〝第三世代〟へ
業界草創期、清掃現場は「水性ワックス」の時代で、樹脂(ポリマー)ではなくロウを原料としていたため、毎日のようにポリッシャーで磨く作業が発生した。その後、米国のローム・ハンド・ハース社が金属架橋の技術を開発し、「樹脂ワックス」が登場する。ワックスの剥離が容易になり、汚れたら洗浄してワックスを再塗布して美観を再生させるウエット洗浄方式が一般的となった。この手法は多くの労務を要し、品質に高低が生まれ、環境への影響も大きいことから、汚れの付着を防ぎできるだけ再塗布せずに高いレベルの美観を一定化させるドライメンテナンス手法の開発が同時に進んだ。
この 50 年以上続く樹脂ワックスの時代を〝第一世代〟とすれば、21 世紀に入るころから樹脂ワックスに代わるものとして、フロアコーティングと呼ばれるシール剤が次々登場した。床維持剤の〝第二世代〟は、定期清掃を行わず品質を一定化する点でドライメンテナンス手法に近い手法といえるが、文字どおりシールするもので、品質の一定化と日常管理の容易さは得られるものの、初期施工費が高く、トラブルが起こっても容易に剝離ができないデメリットも存在した。
こうした樹脂ワックスでもなく、フロアコーティングでもない、第三の床維持剤が、ここ5年ほどの間に登場し、じわじわと導入実績を伸ばしているという。本特集ではこれを床維持剤の〝第三世代〟と捉え、その動向を解説しながら該当する製品をいくつか紹介するが、その予備知識として、過去に取り上げた関連情報を以下に紹介する。
床用ワックスとフロアコーティング剤
5年ほど前になりますが、業務清掃における床維持剤の代表格である「床用ワックス」に対して、「フロアコーティング剤」と称する床維持剤が増えていて、関心が高まっていました。編集部からフロアコーティング剤とはどのようなものか、わかりやすく解説してほしいとの依頼があり、2016年5月号特集「フロアコーティングの基礎知識」に寄稿しました。
特集では、代表的コーティング剤として、ガラス系、UV系、ウレタン系の3種を取り上げ、タイプ別の特徴比較、メリットやデメリットを紹介するとともに、作業性や安全性などについてQ&A形式で解説もしました。
「床用ワックス」を〝第一世代〟とするならば、〝第二世代〟といえる「フロアコーティング剤」の魅力は、初期光沢感が高いうえ、何と言っても傷つきにくく長持ちする光沢(いわゆる高耐久性=光沢維持性)です。それらの塗装によって、日常管理の手間が大幅に軽減され、定期リコートを延長できることがメリットでした。清掃コストの低減が求められ、清掃員の不足は日常化しているので、そのニーズはいまでもまったく変わりません。
一方、塗装と管理には高いスキルとノウハウの習得を必要とし、機械やツールなどの投資も必要なうえ、剝離できないため一度塗ったら元には戻れないというリスクがありました。ですから、一般のビルメンテナンス業者にとってはハードルの高い製品で、市場への普及は限定的でした。
第三の床維持剤とは
それから約5年が経過しました。その間に床用ワックスでもない、フロアコーティング剤でもない、〝第三世代〟とも呼ぶべき異なるタイプの製品および管理システムが、数社から登場してきました。本特集では、それらの床維持剤に着目しました。
〝第三世代〟の特徴は、
①ビルメンテナンス清掃業者が扱いやすい
②高い光沢維持性だけでなく、液体耐性に優れる
③日常管理の手間を軽減し、定期清掃を延長できる
④いざとなったら剝離が可能(ただし剝離作業をなくすことが目標)
ということができそうです。
フロア管理手法に選択肢が広がる
日常管理が簡略化でき、定期清掃を延長できる床管理システムは、ビルメンテナンス清掃業者も、ビルオーナーサイドも、常に求めているものだと思います。一方、単に塗布剤や洗剤を変える程度のことはハードルが低いものの、塗布方法や管理方法を大幅に変えたり、ツールセットやマシンへの投資が必須な新しいメンテナンスシステムの提案に取り組むとなると、途端にハードルが高まります。結局、シンプルでなければ普及できません。その点、〝第三世代〟のハードルは低いことでしょう。
昨年は、新型コロナウイルスの流行に伴って、病院や介護施設だけでなく、多くの店舗で手指消毒用アルコールを多用するようになりました。従って、床用ワックスは至るところでアルコールにより損傷を受けています。この状況は当分続くだろうと思います。レストランやスーパーの油汚れによる黒ずみも長年の課題でした。
これらのエリアで、見た目も衛生状態も管理方法の手間も大きく改善されることは、ビルメンテナンス清掃の提案力を大きく変えていける可能性が高いと思います。
床用ワックス(第一世代)が適したエリア、コーティング剤(第二世代)が適したエリア、そして第三世代の床維持剤が適したエリア、それぞれの良さとリスクを理解し、適宜使い分けて効率を図る時代に来ているのではないでしょうか。
2021年4月号より