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2021 ビルメンテナンスはどう変わるのか?

■ 本誌はビル清掃を科学的に捉え、業界のレベルアップを目指す技術情報誌として1988年に創刊されました。作業技術、管理技術、資機材情報など幅広く取り上げてきましたが、ここ数年は人手不足問題が深刻化し、業務の効率化が以前にも増して求められるようになりました。改めて編集委員会を設置し、幅広い視点から記事づくりを進めていこうというなかで、コロナの問題が起こり、社会状況が一変しました。新しい生活様式やテレワーク等の働き方改革も加速化し、それに伴ってビルマネジメント業界にも大きな影響が起こり、当業界にも多かれ少なかれ影響が出てくる。つまり2021年、ビルメンテナンス業界は大きな変化の波が押し寄せるのではないかという気がします。

■ 年頭にあたり、ビルを取り巻く状況がどのように変化し、業界はどう変わっていかなければならないのか、編集部および編集委員の議論をお届けします。なお、議論に際し、ザイマックス不動産研究所が公表したアンケート調査報告「ビルオーナーの実態調査2020」コロナ編および本編を参照させていただいたことを付記します。

(編集長:坂上逸樹)

2020年をふり返る

◆コロナは災害!

比地岡(編集部:司会)新型コロナウイルスの影響についてふり返ってください。

松本(企画編集委員長)昨年1月の段階でこんな状況になるとは誰も想像できなかった。長い間、ビルメンはどう変わるべきかいろいろ言われてきたけれどまったく変わらなかった。で、もしかすると、コロナによってこの業界も変わるチャンスかもしれないと思いました。テレワークがある程度定着しそうな状況でもあり、おそらく今後オフィスの契約変更や解約が増加し、さまざまな問題が出てくるのではないかと思います。
ビルオーナーも長期的にはあまり楽観的な見通しを持っていないはずです。ただでさえ労働人口減で働く人が減ってきますし、在宅ワークもいろいろ支障があるようで、そうなると本社には1週間に1回か2回程度出勤し、あとはサテライトオフィスに集まって仕事をする、そんな働き方になるんじゃないかとぼくは見ています。

栢森(編集委員)緊急事態宣言発令の4月7日に開業しました。どうしたものかと思っていましたが、ビルクリーニング誌とコラボすることができて、楽しくやってこられたなという印象です。
新型コロナは一つの災害だと思うんですけど、災害というと、地震あり水害あり、いろんな災害に見舞われ、その都度、経験を積んできたと思うんです。世界的なウイルスの流行というのは初めての経験だと思いますけど、そういうことも起こるんだということを認識できた年でした。ウイルスや細菌と付き合っていくのは人間の宿命だと思い、この機会にいろんな知恵や知識を学んで、次のことを考えなければいけないということを思い知らされた年だったんじゃないかと思います。

稲垣(編集委員)昨年変化したことの一つに、国境に対する意識があると思います。いままであまり海外の状況を意識したことがなかった。中国が封鎖されると物流が止まってモノがなくなること、世界が一体化していることを初めて意識したんじゃないか。いま災害というお話がありましたが、今回の災害で一番大きなものは、これまでの価値観が壊れていったことだと思います。

◆ビルメンの課題❶〈IT化の遅れ〉

比地岡(編集部)2020年を契機に見えてきた業界の課題を挙げるとすれば何でしょう?

稲垣まずIT化でしょうね。日本はアジアで最もIT化が遅れています。それでもやってこられたけど、それじゃダメだと思い知るのがこれからだと思います。
ビルメン企業はIT化する動機が弱く、ITリテラシーも低い。そこでぼくはビルメンのコンサルタントを始めましたが、一方でクライアント側もスキルアップして、見る目を養い要望を高くしないと、サービスする側のレベルが上がらない。

松本外からの風が吹いてきて、ビルメンは本当に変わらなければいけないと思っているはず。そこで勝ち組と負け組が出てくると思います。

稲垣海外から参入する可能性もあるかもしれません。海外の管理方法のほうが優れていますから。

松本30年前にサービスマスターが日本に来て、他に何社か話があった。日本人はマネジメントが下手で、苦手で、取り組みにくいと思ったのかもしれないね。

稲垣日本人はある種、超能力みたいな仕事をしている。小学校から生活習慣に掃除が組み込まれていて、勤勉で集団行動をする。例えば「後でやっておいてね」と言えば、10分後くらいでいいかなと、ニュアンスで判断するんです。外国人は「後でやっておいてね」と言うと、その日はやらない。外国は共通言語で伝えないと伝わらず、マニュアルによって属人的にならない仕組みにする。それが世界の潮流です。管理を楽にして品質を保つ。当然コストも安い。日本は無茶苦茶コストが高いし品質もバラバラ。今後、外国人と一緒に仕事をするときに、だれもマネジメントができない。

比地岡確かに、日本人は勤勉さはあるけれど、まんべんなく動いていることが仕事と捉えている。それが日本のITの低さかもしれません。これから労働人口が減少するなかで、まさに課題だと思います。

坂上どうせ私はお掃除だとか、最低賃金だとか、そもそも会社自体がどう成長していくかイメージが持てず、どうせうちはこれくらいの会社だとか、そういう意識もあったと思うんです。コロナを契機に意識改革も必要かもしれません。

松本独立系ビルメンで給与体系、福利厚生、研修教育など、胸を張れるビルメンがどれだけいるだろう。これだけゆるいと、系列系や海外勢にやられて当然です。ただ、正直言って、彼らは業界を良くしようという感じがあまりしない。私は独立系を応援したいんだけどね。

◆ビルメンの課題❷〈サニテーションの標準化〉

比地岡7月号のアンケート調査では、施設の休業と同時にビルメンも休業せざるを得なかったようです。さらに消毒や除菌作業の要請があり、工程が大幅に増えた。他にどんな変化があったのでしょう。

稲垣少なくとも都心部は仕事量が増えて儲かっていると思います。契約変更がない状態で人員は出勤調整し、新しい仕事のスポットを取りに行っていますから。下手にお客さんに寄り添うと、売上げを減らすことになりかねないから、なるべく何もしないという空気感が全体的にあります。

松本ただ、次の手がない。儲かった分を先行投資に回すような仕組みになれば変わると思うけど。例えば、消毒や除菌はどうか。かつてクレンリネス&サニテーションと言っていたけど、これを標準作業にするのは当たり前なんですよ。

栢森サニテーションをなおざりにしてきたというか、見えないからあまり重要視されてこなかった。2020年はそれを突き付けられたわけです。清掃と清潔の度合いって、何を指標にしたらいいのか、というのを突き付けられている。

坂上オーナー側もそれは求めていなかったですよね。どういう指標があるかもわからないし。

稲垣病院清掃なら、感染対策についての要求はあるし、指摘もされます。一般のビルだとそうはならない。

◆ビルメンの課題❸〈目的と仕様のギャップ〉

稲垣ビルメン業界入って十数年ですけど、最初から印象が変わらないのが、ワックスをぺたぺた塗って真っ黒にして剝離で取るということ。これは最初から防げるはずなのに、なぜなのか。

栢森毎日、一生懸命水拭きをする現場は真黒くなりがちです。きれいにしたくて水拭きをするのに、逆効果。

稲垣トイレは素手で洗い、タオル1本しかなく、1本のモップでぺたぺた水拭きする。これでは感染が拡大するし、床が真っ黒になるのも当たり前。

栢森きれいに洗って、きれいなモップで汚れを取り除いてからワックスを塗れば、きれいな膜になる。汚れたモップのままで拭くから黒くなる。

稲垣結局、黒くしているのは自分たちです。ワックスが悪いわけではなくて、黒くしているのが作業員なのに「黒くなりました」とあたかも自然現象のように言う。

松本それは悲しいビルメン病でさ。上から言われたら、疑問も持たずにやるんだよ。

栢森業務を固定化しているからです。こういう作業をしてなんぼっていう。

稲垣基本的にお客様はビル管理の素人です。彼らが造ったもの(建築物)に対して、ビルメンはそれを守ること、きれいにすることが目的であり仕事なんです。ところが、仕様が「きれい」とかけ離れている。請け負いなのに、本音は責任を取りたくない。責任を取りたくないから、お客様の指示で動いてますと言う。
ビルメンは衛生管理を任されているのだから、仕様があること自体おかしな話です。合格ラインを取り決めて、合格であれば契約継続としたほうがいい。それが本当の請け負いじゃないですか。

松本そこまで行きたいけど、料金の計算方法が難しいので、1日何回、平米何円が根拠になってしまった。

坂上労働を提供すれば成立するんですね。だから時給いくらで何時間だと。

稲垣官公庁のカテゴリーは役務ですね。

坂上品質でいくらではなく、動いてなんぼの世界。

稲垣モップ拭き1m21分単価0.125円、利益0.02円ですから。

坂上そこを変えていかないと業界は変わらない。

稲垣だけど、あえて変わる必要もないのかも。本誌としては変えようという方向なんだけど、もっと儲かるような仕組みや提案などを出していくべきで、その一方で、変えるべきことも啓発もしながら。

松本変えられるのはオーナー側からであり、だからオーナーの変化が求められている。コロナによってオーナー側に変化が出てくるのではないかと期待しています。

◆ビルメンの課題❹〈Win-Win-Win の仕組みづくり〉

比地岡先日の「ビルメンヒューマンフェア&クリーンEXPO 2020」では、ビルの利用のしかたが変わってきていることを感じました。例えば、入口でアルコール消毒が行われるようになり、ワックス床がダメージを受けているといいます。施設の使われ方が変われば、清掃業務自体も見直さなければいけないと思います。そのあたり、仕様を変えていくのはオーナー側なのか、ビルメン側なのか?

稲垣ぼくは毎年、ビルメンとして仕様の変更をオーナーへ提案しました。テナントが1社退去しただけで動線が変わるし、トイレの利用回数も変わる。人の流れなどをチェックして仕様を決める。ビルメンでそれをやっている人は見たことがない。アルコールで床が白くなったことに気づいたオーナーから何とかしてくれと言われたら、「わかりました。剝離しましょう」と。また白くなったらまた剝離をやる。儲かるからね。

比地岡オーナー側の向いている方向と違いますね。

栢森資機材メーカーにいた立場から言えば、メーカーは常に良い製品を開発しよう、機能をアップしよう、もっと安いものをつくろうとする。そうすると、メーカーは儲からない。そんなジレンマを抱えています。ビルメンの場合も、いっときは儲かるかもしれないけど、回り回って儲からなくなって、どんどん自分の首を絞めてきたという歴史だと思うんですね。ワックスで性能が良くなりましたというやり方をずっとやってきたのだけれど、それでは将来が見えない状況になっている。やっぱり劇的に何かを変えて、ビルメンも、メーカーも、オーナーも、win-win-winになるような仕組みのものでないと、悪い循環は変えられないと思います。

松本最近はメーカーも外資系が多くなってきましたが、日本のメーカーにとっては刺激になっているのですか?

栢森まあ、大型清掃マシンは昔から輸入品が多く、いまも海外のものばかりですよね。そこは変わらないと思う。そういう意味では、日本はIT化が遅れているという話がありましたが、AIも遅れているのかもしれません。

松本われわれが海外に期待するのは、システムで考えるということです。日本のメーカーのように単品をハイどうぞ、というのではなく。

栢森モノ売りをしているだけだと何も変わらない。どんどん消耗していくだけになる。やはりトータルで、だれに対して何を提供するのか、モノとコト、仕組みとか、そういったものをトータルで提供できないと、何も変わらないと思います。

2021年1月号より

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